シリコンバレーの起業家インタビュー
「外村 仁」氏 編

Part1『アメリカでの起業で大切なこと』

【1】シリコンバレーに来る事になったきっかけを教えて下さい。

 アップルで一緒に働いていた仲間が当時暮していたスイス(MBA習得のため)に遊びに来た際に誘われました。卒業を控えていた私には、パリでスタートする新しいデジタル写真会社の社長のポジションがオファされていました。おいしいもの好きで飯も美味いしワインもいけるということから90%はパリでの仕事を心に決めていました。そんな私の心を動かしたのは、99年から2000年にかけてのシリコンバレーの経済の盛り上がりです。パリは10年経っても街の美しさも食の美味さも変わらない。でもシリコンバレーは10年後には、砂漠化しているかも知れないと思ったことと、元アップル社の同僚から熱烈なラブコールが続き、シリコンバレーでのベンチャーの立ち上げを決断しました。

【2】外村さんは、起業家でいらっしゃいますが、会社を起す際に特に重要な「人・物・金」の内、どれが一番大切だとお考えですか?またパートナーや資金の確保などで、どのような苦労をなされましたか?

 「人・物・金」と良く言うのですが、月並みですが最後には「人」です。誰と仕事をするかという事が一番大切です。企業が成長していく上で、人はどこでも必要です。最初に誰とやるかも人ですし、2、3人で立ち上げて、そこから5、10人になって30人になっていくとして、それぞれのステージで必要な人材は違ってきます。

 私がこの次会社を起す時には、よく冗談で言っているんですが、飯好きな人でなければいけないと。つまり基本的な価値観が違う人と一緒に仕事をするのは非常に辛いです。ですので、人選びはものすごく我がままになって、この人となら上手くやっていけるという選択でかまわないと思います。

 会社の成功もそうですが、金銭的な成功もですが、やっている間の3年5年という長い自分の人生を使っているわけですから、方向性が同じとか、強く心に感じるものがあるとか、この人とやることで自分も成長出来、同時にビジネスも成功出来るなら理想的です。ですから尊敬できない人とよしんば金銭的に成功したとしても、半分の喜びしか生まれません。嫌な人と働くと成功しても喜びが半減するのです。

 実はこれは良くある話なのですが、結果的に私をシリコンバレーに誘ってくれたコファウンダー(共同で会社を設立した人)に会社を辞めてもらうことになってしまいました。ある意味では彼が誘ってくれたにも関わらず、最終的には彼は、会社から首になってしまったのです。シリコンバレーのスタートアップで、ファウンダーエンジニアが3年後にもまだ社長というのは5%くらいです。私達の起した会社も一昨年の6月に日本の大きなIT企業に売却しました。一緒に起業した2人はというと、1人は小さなソフトウエア会社を起し、もう1人はグーグルで働いています。今でも当時の仲間達とは、たまに集まってバーベキューをしたりしています。

【3】パートナーを探す時の大切な点は、どのようなことですか?

 違った側面を持ったタイプの人が集まると良いと思います。例えば1人は内向的で、もう1人は外交的だとか、片方はエンジニアで片方はセールスだったり、1人はハードでもう1人はソフトであったり、片方はシリアスで片方はのんびりしてるなど。でもどこかお互いに共通点があるといった程度の方が上手くいく場合があります。違ったタイプの人間を受け入れられるお互いでないと、上手くいきませんね。あまり似たタイプの人が集まると、会社として機能しないということがあります。色々な人材が必要なわけですから。

【4】仕事で意見が対立し、相手を納得させるのに神経が擦り減るようなことはありませんでしたか?

 毎日、毎日ありました。割と情の人なので、物事をドライに考えられないたちなので。起業家の母と言われるバーバラ・ヘイリーも言っていますがスタートアップを成功させるにはファミリーのサポートが必要です。家族に優しく受け止めてもらえているか、また「そんなことを家庭に持ち込まないで」と言われているかでは随分違います。やはり一番身近な人が自分のやっている事を理解してくれないと上手くいきませんよね。

【5】個人主義のアメリカでは、個人の能力を最大限に引き出す事が大切だと思いますが、多国籍の部下への良いマネージメント方法があったら教えて下さい。

 まず結局本人がハッピーでなければいけないと思います。アメリカ人の場合は、長い目で人材を育てるというような、いわゆる日本の会社的考えは必ずしも喜ばれません。アメリカ人は、「私はこんな職場でこのような仕事をしたい」という考えを持っています。つまり、やりたい事をすぐにしたいのです。

 また意外とアメリカ人は、自主的に動く人が少ないように感じますね。つまり、こちらから何をして欲しいか、はっきり言わないと仕事をしない人が多い気がします。その他の国の人では、例えばフランス人は日本人のメンタリティに近いですし、ドイツ人は職人肌ですしね。やはり大切なのは、彼らの文化を理解して、どうすれば働きやすい職場環境になるか、どうすればモチベーションを上げられるかを考えることですね。そうすれば自然とパフォーマンスレベルも上がります。ですから出来ればマネージャーは、それぞれの違った文化の尺度に合わせ、マネージメントが出来たら素晴らしいですよね。残念ながらシリコンバレーのアメリカ人マネージャーには、このような国別の文化を理解してマネージ出来る人材が、非常に少ないように感じられますね。

【6】ベンチャーキャピタリスト(※4)について、また起業家との関わり方について教えて下さい。

 基本的には彼らベンチャーキャピタリストは投資家ですから、会社に人材教育に来ているわけではありません。例えば投資家はマイクロソフトが好きだから同社の株を買うわけではありません。その株が上がると思うから投資するのです。それに少しは人間的な気持ちが入って、人なり会社なりに投資はしたりしますけどね。勿論ボトムラインには、お金を投資したからには幾らかのリターンがなければいけません。ベンチャーキャピタリスト達のバックには、本当の投資家がいるわけで、その資金を預かって運用するのですから、言ってみればベンチャーキャピタリスト達もファンドマネージャーみたいなものなのです。リターンが悪ければ彼らの首も飛ぶことになってしまいます。

 またシリコンバレーのベンチャーキャピタリストにも上から下まで大きな幅があります。良いベンチャーキャピタリストにあたればネットワークも広く、人を大切にします。たとえ今回の起業がダメでも、そこで育んだ関係を大切にし、次に何かが生み出せるような長期的な視野を持って対応してくれます。また、そのようなベンチャーキャピタリストは人間性も素晴らしく良い関係が築けます。

 先日の経団連のミーティングでも話をしたのですが、アメリカでの良いベンチャーキャピタリストは、お金だけを供給するのではなく、起業家の良いメンターであり、ビジネスデベロッパでもあるのです。例えば投資している先の会社のファウンダーが良くなければ、会社が成功するように他の良い人材を連れて来ますし、商品の売れ行きが悪ければ、顧客先を紹介する存在なのです。良いベンチャーキャピタリストというのは、投資先の会社の価値が上がるように一生懸命に働く人達なのです。

 ですからベンチャーキャピタリストの事を悪く言う人は、あまり良いベンチャーキャピタリストに出会っていないのかも知れません。起業家の方もベンチャーキャピタリストをお金としか見ない人達もいますしね。また経験的な事もあります。例えば起業家の方が経験が少なく、単なる起業家の思い込みで「絶対にこれがやりたい」と思ったとします。経験豊富なベンチャーキャピタリストから見れば、明らかに無駄な事なので起業家の考えを省くことがあるかもしれません。どちらが横暴でどちらがそうでないか一概には言えませんね、色々なケースがあるわけですから。

 一方、日本のベンチャーキャピタリストの多くは、企業に属しています。アメリカでは、個人の責任で運営しています。ですからリスクの大きさが全く違います

アメリカでは自分が集めた資金を運用していますから、自分が投資したものが上手くいかなければ、自分の評判に直接跳ね返ってきますし、その結果お金が入ってこなくなり、自分の首を絞める事にもなります。日本のベンチャーキャピタリストは、自分の属している会社の、つまり証券会社や銀行のお金を使って働いているサラリーマンですから、リスクの大きさが全く違います。またアメリカのベンチャーキャピタリストは、初めからベンチャーキャピタリストなのではなく、元は起業家だったりして、それまでの経験を基にベンチャーキャピタリストになっています。ですからお金の勘定が上手なだけではなく、会社運営の経験が多く、「こんな所で失敗したけれど、こうして成功した」という自分の経験を新しい起業家にアドバイスする事が出来ます。日本のベンチャーキャピタリストは証券マンなので、起業家にアドバイスしたくても経験がないので出来ません。まあ日本のベンチャーキャピタリストは、リスクも低ければリターンも少ないですしね。アメリカのベンチャーキャピタリストが、なぜこのリスクを取るかと言えばリターンが大きいからです。

→ Part2『SVJEN(シリコンバレー日本人起業家ネットワーク)について』へ

2005年4月8日更新

外村 仁 プロフィール

現在は、generic media(※1)に続いて起業した会社First Compass Group の General Partner。現在、ハイテクやバイオのいくつかの分野でコンサル活動を行うと同時に、新製品の研究開発も同時進行中。内容は、まだステルスモードなので話せないそう。
またシリコンバレーの日本人起業家同士がお互いを助け合うことを目的として2002年に発足されたSVJEN(※2)でも活躍中。

日本では、東京大学工学部卒業後、ベイン・アンド・カンパニーという米国の4大コンサルティング会社の一つに就職。コンサルタントとして経験を積んだ後、実務的な仕事を求め、アップル社への転職。

アップルコンピューター株式会社では、ビジネスデベロップメントおよびマーケティングの職を歴任。後年はマーケティング本部副本部長として、新規市場開発、マーケティングコミュニケーション、Mac OS プロダクトマーケティングなどを担当した。藤井フミヤや筒井康隆を起用した一連のCM・プロモーションでは、日経広告大賞を受賞。

東京大学工学部卒
IMD(※3)でMBA取得


語句解説

※1: generic media
2000年春、アメリカ人と香港人のエンジニアとともに、革新的なストリーミング配信の技術とサービスを構築すべくGeneric Mediaを創業。同年夏には、Mobius Venture Capital、Sony、NTTリース社から併せて$12Mの資金を調達し、翌年2月のDemoにて、Generic Media Publishing Service (GMPS)を発表。フォーマットや帯域幅を問わずダイナミックに動画を変換して配信する世界初のシステムで一躍注目を浴びた。

※2: SVJEN
Silicon Valley Japanese Entrepreneur Network(シリコンバレー日本人起業家ネットワーク)。くわしくはSVJENのサイトをご覧下さい。

※3: IMD
スイスのローザンヌに位置する世界的なビジネススクール

※4: ベンチャーキャピタリスト
キャピタルゲイン益を得るために、ベンチャー企業に資金を供給する投資家。ベンチャー企業経営にも大きな影響力を持つ場合が多い。


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